顧客中心主義のビジネスモデル?小売業界のオムニチャネルのマトリクス

顧客中心主義のビジネスモデル?小売業界のオムニチャネルのマトリクス

この記事では、小売業のDX化に役立つような情報ー米国のマーケティング教授バーバラ・カーン氏が2021年に出版した「ショッピング革命」の改訂版を元に、顧客中心主義のオムニチャネルを紹介していきます。

この記事を書いた人
ビビアン:長野県在住のカナダ人。カナダ政府の仕事で来日⇒大手企業を経て⇒現在は動画クリエイター。「自由な人生を探求しながら」クリエイターの視点で夢を抱く人々を応援する情報を発信中。

顧客中心主義の必要性

「質の高いお手頃なシャツが欲しい」

「店を回るより、商品リストから選びたい」

「なるべく早く商品を手にしたい」

買いたい服がわかった時、こんな風に思ったことはありませんか?

「早さ、便利さ、安さ」を求める顧客はコロナでさらに増えました。今までは「周りのトレンド」ばかりを気にしていた人も、コロナをきっかけに「身の安全」にも配慮するようになりました。

この変化は「個人の意識」をさらに高める結果になった出来事です。

顧客中心主義というのは、ひとりひとりのお客様の関心に気を配る考え方です
どんな不安(不満)があるのか、どんなことに喜びを感じるのかを実際に把握することが大切になってきています。

デジタル化においての顧客中心主義

コロナで一気に起きた「デジタル化」は、ショッピングを変えてしまいました。

イギリスのリテールメディアRetail-Weekによると、「グローバルレベルで客様の60%は買い物行動が変わったと回答し、13%が新しいブランドを試す機会と捉えていることから、お客様は小売業者間の切り替えをこれからも増やす」という調査結果があります。

 

つまり、コロナで顧客の「ショッピング習慣」が変わり、新しいショッピング体験を求めるようになりました。

そして、新しいブランドを求める理由も増えたのです。

 

日用品をネットで買ったり、レストランの注文も直接アプリでオーダーしたりするようになってきていますが、店舗体験が不必要だということではありません。

 

株式会社ネオマーケティングが発表した調査では、

「衣服・ファッション小物」「食品・飲料・酒類」「家電・TV・カメラ」「美容・化粧品」の回答結果をそれぞれ比較すると、すべてのジャンルにおいて「陳列棚にある商品全体を見たい」が20%強となった。

各店舗独自のレイアウトの陳列棚から商品を選ぶという体験は、ジャンルにかかわらず、実店舗の魅力だといえます。

 

つまり、手で触って商品を確認する必要がある業界では、店舗での体験はまだまだ必要とされています。

服や靴など、個人差の多い商品を扱っている小売業界では、オンラインと店舗の体験を充実させた「オムニチャネル」が今のトレンドです。

「オムニチャネル」は業界のキーワードなので、知っている人も多いでしょう。

しかし、これから紹介するのは、オムニチャネルと顧客中心主義のコンセプトが融合した新しい考え方です。

顧客中心主義のオムニチャネル

従来のオムニチャネルというと、店舗(オフライン)とオンライン(Eコマース)の融合で、仕組みの部分を強調しています。

デジタルマーケティングはどうするのか、サプライチェーンはどうなるのかなどが議論されることが多いでしょう。お客様に便利さと早さを提供するとともに、売上を伸ばすための「戦略」として注目されています。

 

しかし、ここでは「ビジネスの仕組み」の色眼鏡を外して、「お客様の立場」でオムチャネルの新しい見方を発見してほしいのです。

米国大人気のリテール・マトリクス

これから紹介するのは、アメリカWharton大学のマーケティング教授バーバラ・カーン(Barbara E. Kahn)氏が提案したKahn Retailing Success Matrix(カーン・リテール・サクセス・マトリクス。この記事では簡単に「リテール・マトリクス」と呼びます)

Retail Success Matrix 日本語版

このマトリクスは顧客の視点で「価値」と「圧倒的なアドバンテージ」を分析したものです。

 

Customer Value: right price from whom customer’s trust.

Superior Competitive Advantage: Something better than the competitors.

顧客価値:顧客が信頼する相手からの適正価格。

優れた競争優位性:競合他社より優れたもの。

 

カーン教授は、このマトリクスは顧客中心主義のビジネスモデルが成功するための大切な分析ツールだと言っています。

 

まずは顧客価値。これは列のところです。

 

Product Benefits and Customer Experience (商品価値と顧客体験)

その後は優れた競争優位性。これは行になるところです。

Increase Pleasure and Eliminates Pain Points(喜びを増やして痛みを取り除く)

こうして作り上げられたのが4象限のマトリクスです。

 

それぞれの象限は戦略であり、企業の強みです。

それでは、詳しく見ていきましょう。

第一象限はブランド。ブランドはその会社が表現している価値観です。

Retail Success Matrix 第一象限

例えばラグジュアリーブランドには優越感があり、商品を手にするだけで体験が変わります。

同時に、大切なのは顧客体験です。

第二象限の顧客体験では、商品の価値で差別化したというより、顧客との関わり方が違います。

Retail Success Matrix 第二象限

例えば、ロボットを店舗に設置することでわくわくするショッピング体験を創り出すことができるし、イベントを開催することでコミュニティ感を創り出すこともできます。

第一と第二の象限は「喜びを増やす」アプローチです。

 

では、残りの第三と第四象限は?

この二つの象限は顧客の痛みを取り除くアプローチです。

痛みの中でもっとも影響力があるのは価格です。誰しも安い価格でいいものを手に入れたいと思っています。

なので、第三象限は低価額。

Retail Success Matrix 第三象限

リテールにおいて低価格を実現するためにはコスト削減が必要。サプライチェーンやオペレーションを変えることでコストは削減できると、カーン教授は分析しています。

 

最後の象限はFrictionless(摩擦レス)です。

Retail Success Matrix 第四象限

簡単に言うと、顧客のデータを分析することで、ショッピング体験に関するあらゆることをスムーズにし、便利さを提供することです。

ここでわかりやすいのはアメリカにあるAmazon Go。

 

Amazon Goは購入した商品をスキャンする必要もなく、レジに並ぶこともない無人店舗です。

アプリを開いて入店し、気になった商品を取れば自動的に決済できる仕組み。

 

この仕組みは次のような「痛み」を取り除いています。

  • ラッシュアワーで人がいっぱいのレジ
  • 財布を忘れて商品が購入できない恥ずかしさ
  • スタッフとの接触を減らす(コロナ時期には有利)

 

「店でスタッフと話をするのは楽しみの一つ」と思う人もいるかもしれませんが、Amazon Goの良さを実感しているのは、時間を節約したい忙しい現代人ですね。

このマトリクスはとてもシンプルですが、軸をつけると複雑な分析もできます。

Retail Success Matrix 例

それぞれの象限には、レベルをつけることができます。

そして、優れた企業は得意とする分野(レベルの高い象限)があり、そうではない象限でも顧客を満足させています。

レベルの高さと低さは矢先と中心の距離です。矢先に近いとレベルが高く、中心に近ければレベルが低い。

得意分野は、矢先に近い印になります。

 

小売業の成功例:Zaraの分析

Zaraは世界でもっとも成功しているファーストファッションの一つです。

特に商品をリリースするスピードが速い。

ビジネスモデルから見ると、Zaraはデザインから生産、そして仕入れといったプロセスを最適化したところが素晴らしいですが、カーン教授のマトリクスで分析すると顧客の目線で見ることができます。

 

顧客にとって、Zaraは「商品の良さ(ブランド)」のところと「低価額」のところを特に注目すべきです。

トレンディなデザインをお手頃の値段で買えるのは、働く女性の楽しみです。

Zaraのデザインの多くは、トップダウンではなく現場の情報をもとに作っています。

同時に、顧客から直接データを取り、それをベースに服を作る過程で顧客層をより理解することになります。

その結果、Zaraは広告なしで、口コミとソーシャルメディアのパワーで2000軒以上の店舗を世界中に展開しています。

 

また、Zaraは摩擦レスのところでも進化しています。

2007年、Zaraは初のオンラインストア(zarahome.com)をオープンしました。そして三年後、Zaraサイト(zara.com)でも公式にオンライン販売を開始しました。

 

Zaraはオンラインと店舗を別々に見ず、それぞれの仕組みを融合しようとしたのです。

2018年には、Zaraの運営会社 Inditexグループの12%はオンラインによる収益になっています。

気になるファッションをパソコン一つでどこでもオーダーできる。

こうした「便利さ」を支えるインフラがコロナ以前から形になっていたので、Zaraはコロナ渦の中でも素早く戦略を変えることができました。

 

2020年、Inditexグループはオンラインと店舗でのショッピングの技術的統合に27億ユーロを投資しました。そして、翌年(2021年の5-7月)では、69億9000万ユーロの収益を記録し、パンデミック前の夏の最高値を上回る業績を達成したのです。

 

この結果となった要因の中で、オンラインの便利さと高まった顧客購買意欲(コロナの波)が鍵となり重要なのです。

 

リテール・マトリクスを活かした改善方法

カーン教授のリテール・マトリクスはとてもシンプルで、商品企画からマーケティングまで改善すべきポイントがはっきりしています。

トレンドに合わせて調整するところもありますが、デジタル化重視の今では、以下のようにポイントをまとめることができます。

ブランド:

  • コンテンツ(情報発信)の管理
  • デジタルマーケティング
  • データ中心のマーケティング手法

顧客体験:

  • カスタマージャーニー(ロータッチ)
  • 個人化したオムニチャネル体験
  • ビデオ/音声によるサポート

低価額

  • (オペレーション)プロセスの効率化
  • データの効率化(BI+分析)
  • IoTによる高度な自動化

摩擦レス(ストレスフリー)

  • 人間中心のデザイン(オンライン・店舗・配達)
  • UXデザイン
  • AI技術など

 

これらのコンセプトはビジネスのKPIとどう関連し、どう活用したらいいか、カーン教授は本の中で詳しく解説しています。リテール・マトリクスに興味があれば、ぜひこの本を参考にしてください。

>>The Shopping Revolution: How Successful Retailers Win Customers in an Era of Endless Disruption

まとめ

この記事では、顧客中心主義のビジネスの仕組み、オムニチャネルの新しい見方を紹介しました。

カーン教授のマトリクスはまだ新しいもの(2018年)ですが、すでにアメリカでは高い評価を得ています。

「利益を作るためにもっとも大切にすべきなのはお客様だ」という主張も、私たち消費者に響いているのでしょう。

 

コロナは「個人単位で考える大切さ」を再認識させられた出来事です。

これからのリテールは、オムニチャネルはもちろん、個人を重視した購入体験もポイントになるでしょう。

 

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